ワセダのことば The words in Waseda University

どの道を通るのか(馬場歩き③)

目次

1 早稲田通りだけが「馬場歩き」ですか?

2 「馬場歩き」と呼べるルート、教えてください!

3 目的地が高田馬場駅や早稲田じゃなくてもいいの?

4 「馬場」ってどこよ?

5 まとめ

 

1 早稲田通りだけが「馬場歩き」ですか?

 第3回は「馬場歩き」と呼ばれうるルートについて検証したい。

 前回第2回では、「馬場歩き」とはどこからどこへ徒歩で移動することを言うのか、現役学生にアンケート調査をおこなったところ、早稲田キャンパスもしくは戸山キャンパスから高田馬場駅までの移動を基本とし、その逆方向を許容する回答も半数ほど見られるという結果になった。つまり、徒歩での移動の起点と終点は早稲田キャンパスもしくは戸山キャンパスと高田馬場駅だということがわかったわけだが、早稲田と馬場をつなぐ道は無限にある。早稲田を出発して北回りに日本一周してから高田馬場駅へたどり着くことだってできるのである。しかしそれは「馬場歩き」ではないだろう。

 では、途中のルートはどこを通れば「馬場歩き」だと認定されるのだろうか。

図1:早稲田大学の早稲田キャンパス、戸山キャンパス、西早稲田キャンパスと高田馬場駅の位置関係を示す地図(Google Maps©)。早稲田キャンパスや戸山キャンパスから高田馬場駅へ向かうルートは、早稲田通りのほか、南側の諏訪通り、北側の新目白通りなどが考えられる。

 図1で示したとおり、早稲田キャンパスもしくは戸山キャンパス(以降、まとめて「早稲田」と呼ぶ)と、高田馬場駅を結ぶ道は、「早稲田通り」が最もわかりやすい。早稲田通りの地下には地下鉄東西線が走っており、早稲田駅と高田馬場駅を結んでいる。この通りを徒歩で移動することは、まさに東西線での移動の代わりとなる。

 とはいえ、早稲田と馬場を結ぶルートは他にも考えられる。たとえば、早稲田通りと平行に南側を走る「諏訪通り」や、北側を走る「新目白通り」である。諏訪通り沿いに存在する早稲田大学の学生会館(サークルの部室や練習場などがある)から高田馬場駅へ向かう際、また新目白通りにごく近い位置にある15号館(教育学部の建物)や中央図書館から高田馬場駅へ向かう際など、これらのルートを使用しても不思議はないが、それらは「馬場歩き」と認定することができるのだろうか。早速われわれの調査結果をお示ししたい。

 

2 「馬場歩き」と呼べるルート、教えてください!

 〈第2回で示した調査〉において、図1を示しつつ、次のような質問をした。

 「馬場歩き」と呼べるルートを、下記の地図上ですべてなぞってください。

これに対するキャンパスごとの回答を集計すると表1の通りである。本キャン=早稲田キャンパス、文キャン=戸山キャンパス、理工キャン=西早稲田キャンパスとする。

 「全て早稲田通り」とは、早稲田↔馬場間を全て早稲田通りのみ通るルートである。「諏訪通り」「新目白通り」の内訳にある「全て諏訪」「全て新目白」も、同様に全て諏訪通りを通る、もしくはすべて新目白通りを通るルートであるが、諏訪通りや新目白通りは高田馬場駅とは直接につながっていないので、駅周辺は南北に走る道を通って高田馬場駅とつなぐことになる。言い換えればそれらは早稲田通りを通らないルートということである。「諏訪通り」で「明治通り経由」としたものは、早稲田から途中まで諏訪通りを通って、南北に走る明治通りを経由して早稲田通りに接続し、以降早稲田通りを歩いて馬場へ行くルート、「新目白通り」の「明治通り経由」も同様に明治通りを経由するルートである。

 さて、表1を見ると、やはり「全て早稲田通り」は回答者全員が「馬場歩き」だと認めている、不動のルートであることがわかる。これは想定内であった。問題はそれ以外のルートがどれほど認められているかであろう。

 何らかの形で諏訪通りを通るルートも、各キャンパス半数以上は「馬場歩き」と呼べると回答している。特に理工キャンの学生は諏訪通りルートの回答率が高く、早稲田通りよりも諏訪通りに近い理工キャンの立地が影響していると考えられる。

 諏訪通りは文キャンの正門が直結する通りであり、本キャンより文キャンの方が距離的に近いにもかかわらず、諏訪通りルートは本キャンと文キャンで回答率にほとんど差がなかった。ただし、両キャンパス所属学生のサークルへの所属の有無と諏訪通りルートの回答率の関係を見ると、表2のとおり明らかな違いがあった。

 まず、文キャンの学生はサークルへの所属の有無にかかわらず約半数が諏訪通りルートを可と回答している。しかし本キャンの学生は、サークルへ所属している回答者の諏訪通りルートへの許容率が60%である一方で、サークルへ所属していない回答者の許容率は0%であった。

 この結果にはおそらく、サークル活動と諏訪通りルートへのなじみ度が関係しているであろう。文キャンの正門から少し西の諏訪通り沿いにある学生会館は、多くの早稲田大学のサークル活動の拠点となっている。サークルに所属する本キャン学生は学生会館を出発点として諏訪通りルートを使用するが、所属しない学生は本キャンから遠いため諏訪通りルートになじみがない可能性が高い。文キャン学生はキャンパスの立地からサークルの所属に関係なく諏訪通りルートを使用する可能性があるのである。文キャンでは、全て諏訪通りを通るルートも「馬場歩き」と認める学生が全体の1/3程度と多く見られた。

 また、新目白通りルートを「馬場歩き」と考える学生はごく少数いるが、このルートはほとんど認められていないことも明らかになった。

 

3 目的地が高田馬場駅や早稲田じゃなくてもいいの?

 また、次のような質問もしてみた。

駅やキャンパスにたどり着く道中の店が目的地であっても、「馬場歩き」と言えますか?

 この質問の趣旨としては、道中の店に寄った後、歩かずにバスやタクシーで移動してしまっても、店までは徒歩で行っていれば「馬場歩き」と言えるかという意味である。このことは口頭で説明した上で回答してもらった。キャンパスごとの回答をまとめると表3の通りである。

 この結果を見ると、過半数の学生が道中の店が目的地であっても「馬場歩き」と言えると考えていることがわかる。これは一見、第2回のどこからどこまで行くことを馬場歩きと呼べるか、という質問への回答と矛盾しているように感じられる。早稲田↔馬場を歩くのが馬場歩きじゃなかったのか。

 

4 「馬場」ってどこよ?

 このことについては、回答者が「馬場」とはどこだと考えているかが関係している可能性がある。調査では図1について次のような質問もおこなった。

「馬場で○○さんに会った。」「昨日馬場に行った。」などと言うときの地名である「馬場」が指せる範囲を下記の地図上に丸で囲んでください。

 この結果、最も多かった回答は「明治通り以西高田馬場駅周辺」(図2)で23名おり、次に多かった回答は「明治通りより少し西から高田馬場駅周辺」(図3)で13名であった。

図2:黄色の丸が「明治通り以西高田馬場駅周辺」の回答例(Google Maps©)

 

図3:青の丸が「明治通りより少し西から高田馬場駅周辺」の回答例(Google Maps©)

 図2および図3を見るとわかるように、ほとんどの回答者が「馬場」を高田馬場駅だけでなくかなり広い範囲で捉えている。特に明治通り以西から高田馬場駅周辺にかけては、多くの飲食店が集まり、そこを目的地として「馬場歩き」するというシチュエーションも生じやすい場所である。

 調査では、「途中の店」がどこにあるかを指定しなかったが、図2や図3の丸の範囲内にある場合は、そこも十分に「馬場」であると言えるのであり、店を出てからバスやタクシーに乗ったとしても、「馬場歩き」と考えて矛盾はないということになる。なお、「馬場」の範囲を聞く質問で、1名のみ、「馬場」とは高田馬場駅そのもので周辺の地域や店は含めないとした回答者がいたが、「駅やキャンパスにたどり着く道中の店が目的地であっても、「馬場歩き」と言えますか?」という質問には「言えない」と回答していたことも付け加えておく。

 ただし、表3では「言えない」や「その店を出た後に駅やキャンパスまで歩いて行くなら言える」と答えた回答者も一定数いるところから、あくまでも出発点と終着点が早稲田大学と高田馬場駅でなければならないとする認識も根強くあるようである。

 

5 まとめ

 結論をまとめると以下の通りになる。

  • 「馬場歩き」と呼べるルートは早稲田通りが中心である。
  • 諏訪通りを通るルートも、過半数の学生が「馬場歩き」だと認識している。
  • 新目白通りを通るルートは「馬場歩き」だとはほぼ認識されていない。
  • 早稲田大学↔高田馬場駅間の途中までしか歩かなくても過半数の学生が「馬場歩き」だと感じているが、やはり終着点まで歩かなければならないと考える学生も半数弱存在する。
  • 「馬場」と呼べる範囲は「高田馬場駅」よりかなり広く、明治通り以西と考える学生が半数以上いる。

 ところで、新宿区の町名としての「高田馬場」は一丁目から四丁目まであり、図2や図3の丸よりはるかに広い。ただし、その東端は明治通りであることから、早稲田大学生の「馬場」意識へ何らかに影響を与えている可能性はある。

 澤崎文、内山咲、宇津木友哉、二階堂友大、黛直汰朗