ワセダのことば The words used at Waseda University

投稿者: nihongogakuken

  • どこからどこへ移動するのか(馬場歩き②)

    どこからどこへ移動するのか(馬場歩き②)

     

    目次

    1 「馬場歩き」ってどこからどこへ行くの?

    2 いよいよ調査!

    3 歩く方向のスタンダードは

    4 「馬場歩き」の特殊性

    5 まとめ

     

    1 「馬場歩き」ってどこからどこへ行くの?

     いったい「馬場歩き」とはどこからどこへ行くことを意味して使われているのだろうか。

     第1回では、馬場歩きについて、巷では「高田馬場駅から早稲田大学まで歩くこと」と、「早稲田大学から高田馬場駅まで歩くこと」またはその両方という異なる言説がささやかれている様子を確認した。これでは「あした馬場歩きしよう。」と話した2人が、高田馬場駅と早稲田大学にそれぞれ集合して永遠に会えない事態が生じてしまうかもしれない。今こそわれわれ日本語学(国語学)研究班が、早大生の「馬場歩き」に関する言語意識を解明しようではないか。でも、そもそも、行く方向の認識が人によって違うなどということが本当におきているのだろうか。

    図1:早稲田大学の早稲田キャンパス、戸山キャンパス、西早稲田キャンパスと高田馬場駅の位置関係を示す地図(Google Maps©)。黄色の線で示した道が「早稲田通り」であり、その地下を地下鉄東西線が走っている。ここを徒歩で歩くのが「馬場歩き」の基本的意味とされる。

     実は、「日本語学(国語学)研究班」の前身である「国語学研究班」が1997年に刊行した『早稲田大学キャンパス言葉辞典』には、このように書かれている。

    ばばあるき【馬場歩き】

     早稲田大学、または早稲田から高田馬場まで歩いて行くこと。「どうやって帰る?」「ばばあるきで」

     少なくとも1997年時点では、早稲田大学→高田馬場駅の方向だと認識されていたようである。

     また、早稲田大学のサークルである早稲田大学辞書研究会が2015年に刊行した『早稲田大辞書 2015』にはこのようにある。

    ばばあるき【馬場歩き】

     早稲田キャンパス・戸山キャンパス近辺または西早稲田キャンパス近辺と、高田馬場駅の間を歩くこと。(用例)「馬場歩き途中にある店」

     方向には言及がなく、キャンパスと高田馬場駅の間を移動することを方向を問わず言うように見える。また道の一端は高田馬場駅だが、もう一端には早稲田キャンパス・戸山キャンパスとともに西早稲田キャンパスも挙げられている。

     さらに、早稲田大学のサークルである早稲田大学マイルストーン編集会が毎年作成している、早稲田大学の情報雑誌『Milestone Express』には、「全訳早和辞典」として早稲田用語辞典が特集されており、現時点での最新刊である2025年発行の第19版には、このように書かれている。

    ばば-あるき【馬場歩き】

     早稲田大学の本キャンや文キャンから高田馬場駅まで直接歩くこと。

     なんと、年代にかかわらずやはり早稲田大学→高田馬場駅の方向だという認識が存在することがわかる。また、道の一端である早稲田大学側は本キャンと文キャン(後述)のみであり、いわゆる理工キャンである西早稲田キャンパスは挙げられていない。

     つまり、ネット言説のみならず、早稲田大学に関係する各辞書においても、語釈がゆれているのである。

     

    2 いよいよ調査!

     われわれは、「馬場歩き」について解明すべく、まず2025年5月~6月に本キャン、文キャン、理工(りこ)キャンの学生の意識調査を行った。本キャン、文キャン、理工キャンとは、早稲田大学のキャンパスことばで、下記のキャンパスを指す。位置関係は図1の地図を見られたい。

    • 本キャン:早稲田キャンパス=政経、商、法、教育、社会科学、国際教養学部のキャンパス
    • 文キャン:戸山キャンパス=文、文化構想学部のキャンパス
    • 理工(りこ)キャン:西早稲田キャンパス=理工学部のキャンパス

     調査は対面で質問項目を説明しつつ、調査用紙に書き込んでもらう形でおこなった。また、調査対象者は早稲田大学の学部2年生以上で、「馬場歩き」という言葉を使う学生である。1年生を対象にしなかったのは、調査時期が5月~6月であり、まだ1年生は入学して2ヶ月ほどで「馬場歩き」という言葉になじみがない可能性があるためである。また、大学院生は大学院内での独自の言語生活や言語実態があることが考えられ、それが学部生とは何らかに異なるものである可能性があるため、対象から外した。有効回答者数は文キャン21名、本キャン12名、理工キャン11名の計44名である。調査用紙は〈こちら〉。 なお、以降は「高田馬場駅」のことを単に「馬場」と略称する。また、本キャンと文キャンは近い位置にあるためまとめて「早稲田」と呼んで理工キャンの「西早稲田」と区別することがある。

     

    3 歩く方向のスタンダードは

     アンケート調査にて、このような質問をした。

    「馬場歩き」という言葉は、どこからどこまでを徒歩で移動するという意味で使いますか?

     これに対するキャンパスごとの回答をまとめると下記の通りである。

     表1は回答者の数、グラフ1は母数に対する回答率を示している。これらからわかるように、本キャン(もしくは文キャン)つまり早稲田→馬場の方向はほとんどの回答者が「馬場歩き」と呼べると回答している。一方で、逆の馬場→早稲田という方向を回答したのは約半数であった。実は早稲田→馬場の方向のみを可とした回答者は20名、早稲田↔馬場の双方向を可とした回答者は19名おり、馬場→早稲田を可としている人はほぼ全員が早稲田→馬場も可としているため、実際は全体(44名)の約半数が早稲田→馬場の一方向のみ可、約半数が双方向可という結果である。馬場→早稲田が可で早稲田→馬場は不可という回答者は2名のみであった。これをまとめると、「馬場歩き」は早稲田大学の本キャン・文キャンから高田馬場駅方面へ歩くのがメインだが、逆も半数の学生には使用されているということになる。

     また、馬場歩きに対する意識はキャンパスごとにあまり差がないことも見て取れる。早稲田→馬場を可とする学生はどのキャンパスも多く、理工キャンでちょっと少ないものの、7~9割の水準を保っている。馬場→早稲田を許容する学生の割合は各キャンパスで違いがなく、文キャンが少し少ない程度で、どのキャンパスの学生も5割前後である。

     さらに、本キャンの学生も文キャンの学生も、本キャン→馬場を可としている回答者はすべて文キャン→馬場を可と回答していた。逆もしかりである。どうやら馬場歩き仲間として、両キャンパスの学生はお互いのキャンパスを認め合っているようだ。なお、理工キャンの学生2名のみが本キャン→馬場を可としつつ、文キャン→馬場を不可と回答していた。理工キャンの学生からはわずかではあるが、「馬場歩き」を本キャンの特権とする意識が垣間見える。

      理工キャン→馬場は11名と全体の4人に1人で許容度は高くない。理工キャンの学生でも11名中4名と許容する人は半数に満たなかった。理工キャン特有の言語意識については、第4回でまた詳しく述べたい。

     

    4 「馬場歩き」の特殊性

     「馬場歩き」が早稲田→馬場をスタンダードとする一方で、半数は早稲田↔馬場という双方向の移動が可能と考えていることがわかったが、ここで「馬場歩き」という語が日本語全般の中で特殊であることを主張したい。

     日本語には、「○○歩き」という語構成を持つ語が多く存在する。『日本国語大辞典』第二版(小学館)で調べたところ、「○○歩き」は78項目が立項されていた。「あるき」の異語形と考えられる「ありき」の形も含め、これらを語構成ごとに分類すると表2の通りである。

     「馬場歩き」は当然ながら一般の辞書には載っていないが、ここに分類するとしたら「場所+歩き」であろう。辞書の「場所+歩き」23語をさらに意味別に分類すると表3の通りになる。

     表3をみると、「場所+を+歩く」と「場所+へ+歩く」の語がほとんどを占めている。「馬場歩き」は、「馬場を歩く」ことを意味するわけではない。また、「馬場へ歩く」ことを意味する場合もあるが、「馬場から歩く」も使用者の約半数が許容しており、その場合「馬場へ、または馬場から歩く」の意味を持っている。しかし、日本語における他の「○○歩き」には、「場所へ、または場所から歩く」の意味を持つ語は存在しないのである。

     表3の「場所+から+場所+へ+歩く」がそれにあたると思われるかもしれないが、そうではない。例えば「県歩き」の語釈に「主に平安時代、地方官が、任国から任国へと地方を転々と勤務して回ること。」とあるように、「場所+から+場所+へ+歩く」は「場所から場所へ転々として回る」ことを意味する。「馬場歩き」は「馬場から馬場へ転々として回る」ことでは断じてない。つまり、「馬場歩き」は同じ語構成をもつ語の中で、極めて特殊な意味を持つのである。

     さらに言うと、「馬場歩き」が「場所へ、または場所から歩く」意味だと説明したが、厳密には「特定の場所X(早稲田大学)から特定の場所Y(高田馬場駅)へ、または特定の場所Yから特定の場所Xへ歩く」ということになる。この場合、「馬場歩き」という語形に明示されているのは場所Y=高田馬場駅だけであり、場所Xにあたる早稲田大学は「馬場歩き」という語形の上には明示されていない。このことは、ほかの全ての「場所+へ+歩く」の意味を持つ「○○歩き」には見られない特徴である。他の「○○歩き」は行き先の場所は特定しても、出発点はどこからでもかまわない。

     しいていえば、「外(ほか)歩き」(家を出て他の家を訪ねあるくこと。)や「江戸歩き」(江戸府外とされた遊里吉原に住む者が、郭外の町へ出歩くこと。深川などの岡場所でもいった。)のような語は、特定の地名ではなくその人の「家」や「住みか」を出発点とすることが前提とされている。このことから考えると、「馬場歩き」においては、特定の場所でありながらもはや「早稲田大学」がその語の使用者の「家」として前提されていることになる。ここには早稲田大学に身を置く早大生の立場や視点が無意識に言葉へ反映されているのであろう。「馬場歩き」は自らのhomeを早稲田大学であると自認する態度から生まれたのである。また、その「早稲田大学」は厳密には本キャンか文キャンということになるため、「馬場歩き」は両キャンパスの学生の視点が内面化された語だと言える。おそらくこの語を作り出した層も、本キャンか文キャンの学生である可能性が高いだろう。

     

    5 まとめ

     結論をまとめると以下の通りになる。

    • 「馬場歩き」は約半数が早稲田大学↔高田馬場駅の双方向の移動、約半数が早稲田大学→高田馬場駅の一方向のみの移動を指すと認識している。
    • 所属するキャンパスによってこの認識にほとんど差はない。
    • 同じ早稲田大学ではあるが、理工キャン↔高田馬場駅の移動を指す使い方はあまり許容されない。
    • 「馬場歩き」がもつ「特定の場所X(早稲田大学)から特定の場所Y(高田馬場駅)へ、または特定の場所Yから特定の場所Xへ歩く」の意味は、日本語における「○○歩き」の中で極めて特殊。
    • 「馬場歩き」には、早稲田大学をhomeと考える早大生の心性が反映されている。

     おそらく、「馬場歩き」は元々、早稲田大学→高田馬場駅という方向で歩くことを指して生まれ、「場所+へ+歩く」という特に珍しくはない意味の語だったのではないか。アンケートで早稲田→馬場を可とする回答者がほとんどを占め、逆の馬場→早稲田は半数に留まったことからも、早稲田→馬場の方向が本義(本来の意味)であると解釈できる。そのうち、使用者によって馬場→早稲田の方向を歩くという派生義(本義から派生してできた意味)が生み出され、早稲田↔馬場という双方向の移動を可能にしたのではないか。

     なお、今回のアンケートは調査数があまり多くないため、正確を期すにはより多人数を対象にした調査が必要となるが、本キャンと文キャンの学生だけをみると、早稲田↔馬場の双方向を可とする回答者が、2年生は37%、3年生は42%、4年生以上は54%という結果になっており、学年が上がるほど双方向の意味を認識する率が上がっていった(グラフ2)。

     早稲田大学になじむほど早稲田↔馬場双方向の意味を獲得していくのであり、この意味は派生義ながら早稲田大学ヘビーユーザーにとっての「馬場歩き」の真義となっているのかもしれない。これを利用すれば、早稲田↔馬場の双方向の意味で「馬場歩き」を使っているかどうかが、早稲田にどっぷり浸かっているかどうかの指標になることも考えられる。さて、あなたはどの意味で「馬場歩き」を使っていただろうか。

     そして辞書に載らない「○○歩き」は全国にあると思われるが、「馬場歩き」と似た意味の「○○歩き」をご存知の方は、ぜひ日本語学(国語学)研究班までお知らせいただきたい。

    澤崎文、内山咲、宇津木友哉、二階堂友大、黛直汰朗

  • 馬場歩きに関する言説(馬場歩き①)

    馬場歩きに関する言説(馬場歩き①)

    1 われわれはまだ「馬場歩き」を知らない

     「馬場歩き」という言葉を知っているだろうか。早稲田大学の学生であれば、かなりの割合の人が認知しているこの言葉について、実は私たちはまだ何もわかっていない。というのも、この言葉はいわゆる「早稲田大学キャンパスことば」と呼ばれる、早大生に特有の言葉であって、早稲田大学の学生や卒業生などにしか認識されておらず、一般の辞書には掲載されずにほとんど口伝えで継承されているため、明確な定義や語釈が不明なのである。

     とはいえ、多くの早稲田大学の学生に「馬場歩き」は「早稲田大学早稲田キャンパスや戸山キャンパスから高田馬場駅まで徒歩で移動すること。」だと理解されていることが多い。しかしながら、ネット上には、馬場歩きについてさまざまな言説が飛び交っている。ここにその一部を紹介してみよう。以下、引用するインターネットサイトの最終閲覧日は全て2025年7月11日である。

    2 「馬場歩き」に関する巷の言説

    2-1 「馬場歩き」の方向はどっち?

     早稲田大学の広報Webマガジンである「早稲田ウィークリー」が、2025年4月に「馬場歩き発掘マップ」という特集を公開した。そこにはこのように書かれている。

    JR山手線・西武新宿線・東京メトロ東西線の高田馬場駅~早稲田キャンパス間を歩くことを指す、早大生用語の一つ、“馬場歩き”。(早稲田ウィークリー「馬場歩き発掘マップ」)

    また、早稲田大学の公式HPには、2015年に公開された「馬場歩き」という記事が掲載されている。そこには次のような説明がある。

    高田馬場駅と早稲田キャンパス間を通学するには、「地下鉄東西線に乗る」「バスに乗る」「徒歩」の3通りがあります。その中で、高田馬場~早稲田キャンパスを歩くことを学生たちは「馬場歩き」と呼んでいます。留学生のみなさんは、「Baba Walk」とも言うようですね。(早稲田大学「馬場歩き」)

    この2つの記事を見ると、高田馬場駅から早稲田キャンパスの間を歩くことが方向を問わず「馬場歩き」と呼ばれているように解釈することもできるが、読みようによっては高田馬場駅→早稲田キャンパスの一方向のみを表すようにも感じられ、少し確証が持てない。そして、早稲田大学の公式広報誌やHPがこのようにいうのだから、「馬場歩き」の定義はこれでいいかというと、そうではない。キャンパスことばは大学生のものであって決して大学のものではない。

     他の言説も見てみよう。早稲田大学の卒業生であるタレントのアンゴラ村長氏は、次のように述べている。

    馬場歩きとは、高田馬場駅から早稲田大学までの25分くらいの道を歩くことです。〈中略〉もちろん地下鉄に乗れば、高田馬場駅から大学最寄りの早稲田駅までビュンッと行くことができます。それに乗るのも良いですし、でも友達とダラダラおしゃべりしながら歩くのもとても乙なのです。それも含めて大学生活なのです。(さんたつ「アンゴラ東京めぐり」)

    やはり、高田馬場駅→早稲田大学の一方向のみを表す言葉として認識されている。なお、同記事によるとアンゴラ村長氏は「2017年頃まで、早稲田大学に通ってい」たそうである。
     ほかにも、高田馬場駅→早稲田大学の方向を歩くことを指して「馬場歩き」と呼ぶ例は、ネット上に多く見受けられる。

    高田馬場から早稲田キャンパスまで歩くことを指す。(現役早大生が伝える!早大生活ナビ)

    高田馬場駅から早稲田大学までのおよそ20分の距離を歩く事を馬場歩きと言います。(早稲田大学生名物、馬場歩きといふもの)

    しかし一方で、その逆の早稲田大学→高田馬場駅の方向しか「馬場歩き」と認めない言説も見られるのである!

    馬場歩きとは、早稲田から高田馬場まで歩く事を言う。〈中略)因みに、高田馬場から早稲田に向かうのには特に名称が無く、もっぱら早稲田から高田馬場に向かって歩く場合のみが言われる。(ニコニコ大百科「馬場歩き」)

    なお、次のようなものも早稲田大学→高田馬場駅の方向で捉えていることが確認できる。

    学生時代には早大から高田馬場までの通りを歩いて帰ることがよくありました。いわゆる「馬場歩き」と呼ばれる行動で…(デヤブロウ「【銭湯巡り】新宿区・世界湯/馬場歩きの後で行ける早大生へオススメ銭湯」)

    「早稲田大学の同級生として出会った2人。早稲田キャンパスから高田馬場駅まで歩きながら話していた学生の頃のように、仲の良い友人として何気ないトークを繰り広げる番組」・・・という意味でタイトルをつけましたが…(TBSラジオ「サスペンダーズの馬場歩き」)

    このように、「馬場歩き」とは、高田馬場駅と早稲田大学の間をどの方向で歩くことを意味するか、そんな基本的なことすら明らかになってはいないのである。

    2-2 「馬場歩き」の道はどれ?

     実は「馬場歩き」と呼べるルートも少し曖昧である。方向はともあれ、高田馬場駅と早稲田大学の間を歩くことを意味するとなると、その出発点と終着点は決められていることになるが、途中の道はどこを通れば「馬場歩き」と言えるのだろうか。
     もちろん、最も基本的なルートは早稲田通りを通る道だと考えることができる。早稲田キャンパスや戸山キャンパスと高田馬場駅をつなぐ早稲田通りは、その地下に地下鉄東西線が走っており、この道を通る「馬場歩き」はまさに地下鉄での移動の代わりになる。

    図1 早稲田大学~高田馬場駅間の地図(Google Maps©)
    各キャンパスと高田馬場駅を結ぶ道は早稲田通りが有名だが、他にもルートがあり得る。

     先述の「早稲田ウィークリー」による馬場歩き特集では、馬場歩きをするにあたって通ることのできるスポットが多く紹介されている。そこに挙げられているものを見ると、多くが早稲田通り沿いの店だが、中には「サイゼリヤ 西早稲田店」や「Le Cafe RETRO(閉店)」「戸山公園」など、早稲田通りと平行に走る諏訪通り沿いのスポットもある。また、掲載されている「馬場歩きイラストマップ」には、早稲田通りのみならず諏訪通りや新目白通り、明治通りが描かれている。

     また、先述の「ニコニコ大百科」では、「最近、大学側の対応で、学生会館からの馬場歩き経路が捻じ曲げられた。学生には、なるべく大通りを通るよう、注意を促している。」とあるように、早稲田大学学生会館を起点とした経路に言及がある。学生会館は諏訪通り沿いにあることから、「学生会館からの馬場歩き経路」とは諏訪通りを通る経路であると考えられる。これをも「馬場歩き」の一経路と考えているということになる。「馬場歩き」と言えるルートは早稲田通り以外にも可能なのかどうか、検証が必要であろう。

     さらには、高田馬場駅と早稲田大学をつなぐ「馬場歩き」の起点と終点についても、早稲田大学とは、早稲田キャンパス、戸山キャンパス、西早稲田キャンパスのうちいずれを指すのか、定かではない。早稲田大学の本部がある早稲田キャンパスは入りそうであるが、戸山キャンパス、西早稲田キャンパスは「馬場歩き」の始まりや終わりの地点と考えて良いのだろうか。こちらも検証が必要である。

    2-3 「馬場歩き」はいつからあるの?

     「早稲田ウィークリー」には、高田馬場経済新聞の記者・田中健一朗氏が寄稿しており、そこに「馬場歩き」の成立に関する興味深い発言がある。

    「馬場歩き」という言葉は、どこから生まれたのでしょうか?
    複数の知人に確認したのですが、現在50歳以上の卒業生は現役時代に「馬場歩き」という言葉を使っていなかったそうで、比較的新しいワードなのかもしれません。

    ここでの「現在」とは、2025年4月時点であろうから、1975年生まれより上の人は「馬場歩き」を使っていないということになる。高校卒業後すぐ18歳で大学に進学すると仮定すると、1994年入学以降の学生から「馬場歩き」は生まれ、2025年現在まで約30年の歴史を持つ言葉だということになる。これが本当に正しいのか、またこの言葉の成立当初はどのような意味で使われていたのか、「馬場歩き」の歴史についてはなお調査が必要である。

    3 まとめ

     以上のとおり、巷間でささやかれている「馬場歩き」についての言説を概観しつつ、「馬場歩き」について未解明の点が豊富にあることを確認してきた。こういった言説のうち、いったいどれが真実なのだろうか。確かめてみるしかない。

     私たち「日本語学(国語学)研究班」の目的は『早稲田大学キャンパス言葉辞典 第三版』を作成することにあるが、それと平行して、早稲田大学キャンパスことばとされる個々の語について掘り下げて解明することもおこないたい。第2回以降は、手始めに「馬場歩き」についてのいろいろな要素を調査・検証のうえ、明らかにしていきたい。

    澤崎文、内山咲、宇津木友哉、二階堂友大、黛直汰朗